エンゼルバンク

三田紀房のマンガにエンゼルバンクというマンガがある。これは前の記事でも書いたドラゴン桜のスピンオフ作品である。主人公はドラゴン桜で高校教師として登場した井野真々子である。32歳の女性教師である彼女は教師の仕事に退屈し始めており、前作の主人公である弁護士の桜木に相談を持ち掛け、そのつてで転職エージェントの海老沢康生と出会い彼のもとで働くようになる。そして転職エージェントとして井野は働くようになる。仕事がつまらないと嘆く中堅商社の若手の男性社員、正論をぶつけるばかりで回りとうまくやれない東大卒商社マン、一般職で応募したがためになかなか出世や昇給が見込めない30代女性、専業主婦になって再就職先がなかなか見つからない女性様々な人物の転職相談を持ち掛けられる。そのたびに井野は納得してもらえるようなプランを考えるが企画するたびに海老沢に一笑に付され、相談者を怒らせたりするのだが、彼らのキャリアプランを真剣に考え、相談者のプライドや心情に配慮しながらも意表を突くようなプランを提示するようになる。

これが面白いと思ったのは、就活、転職は受験のように正解がほとんど決まり切っていて試験日までにやるべきことが明確に決まってくるわけではなく、労働市場を取り巻く人間の市場価値と、人間の心理によって大きく左右される。会社組織をどう見るべきなのか、転職においてどんな失敗がありがちなのか、どんな人が印象よく見られるのかがマンガを読めばかなり的を射た内容が書いてある。

作中に会社は誰のものかという問いがある。直感的には経営者のものだと思うだろう。しかしファイナンス論をかじっていたりする人や、資本家の走狗である会計士の立場からすれば株主のものであると答えたくなる。

しかし大方の予想に反して海老沢は従業員のものであると答える。

また経営者は顧客のためではなく、従業員のために働くべきであると海老沢は主張する。

これは顧客に直接価値を伝える存在である従業員を最も重視することが会社が利益を上げるために重要であるという考え方からきている。

経営学用語ではサーバントリーダーシップと呼ばれ、サウスウエスト航空などが成功例としてあげられる。顧客からの評判も良く売り上げも上がっているそうだ。

多くの会社が株主や経営者ではなく従業員のために存在するようになれば日本の労働市場も活気づくというのは本当にその通りだと思った。